優しい嵐 |
先輩方が卒業された。先程まで学園内に溢れていた涙声や笑い声、別れを惜しむ挨拶などは既に消え、まるで誰もいないかのような静寂に包まれている。誰もが一人、表しようのない寂しさを抱えて思い出を噛み締めているのだろう。私も今は一人になりたくて、喜八郎に行き先も告げず出てきてしまった。 七松先輩が卒業された。明日からは私が体育委員会委員長代理だ。長年望んでいた役割。しかし何故か心の底から喜べない。明日もいつも通りに裏裏山まで軽くランニングをしてから土豪掘りでもして、時間があればバレーボールもして。そんな当たり前の日々に七松先輩がいないことが、私には考えられない。明日もまた元気良く、悉く私の少し前を走って下さるような気がしてならないのだ。 「いけいけ、どんどん」 今思えば、嵐のような人だった。台風の目のような。色々なものを巻き込み、猛進していく。それは時に人を辟易させたこともあっただろう、しかし今となってはその嵐にもう巻き込まれることがないという事実が、やけに寂しい。…嗚呼、私は寂しいのだ。先輩がいなくなって。 どれだけ努力しても適わなかった。走っても走っても追い付けなかった。私がこの学園内で唯一適わなかったあの人が、最後に私に残した言葉は何だったろうか。そう想いを巡らせて、すぐに止める。涙が溢れそうになって俯いた。 先輩、長い間、ありがとうございました。 この平滝夜叉丸は、七松先輩を必ず忘れません。 体育委員会がこの先も花形であり続けるよう、努力してみせます。 だからどうかいつまでもご無事で。またいつか、元気な声をお聞かせ下さい。 私の心の願いを知ってか知らずか、一陣の強い風が吹き桜の木を揺らした。満開の花びらは風に煽られて私に降り注ぐ。涙で滲む世界に、先輩の声が聞こえたような気がした。 『滝、後は任せたぞ。』 - - - - - - - - - - 遅くなってしまったのですが、こちらは七松小平太役だった林さんに敬意を表して。 林さんはもうそのまんま小平太が現実世界に飛び出してきたのかと思いました。 この最後の言葉も、実際に林さんが、滝ちゃん役の裕太くんに言った言葉です。 後輩想いの、本当に、熱いお方でした。ありがとうございました。 |